女王様の本棚 第1回:松沢呉一『マゾヒストたち 究極の変態18人の肖像』 by 奈那

ごきげんよう、奈那です。緊急事態宣言発令中の東京都内。皆さん元気にしているだろうか。


新型コロナウイルス感染拡大の影響で、アマルコルドは4月6日から休


業している。せっかくなので、その間ブログを書くことにした。テーマは「女王様の本棚」。自分が持っている本を、個人的な話も織り交ぜつつ紹介していこうと思う。ちなみに、アマルコルドが営業を再開しても私の筆が乗る限りは続けるつもりだ。乞うご期待!




第1回は『マゾヒストたち 究極の変態18人の肖像』(新潮社)。

アマルコルドにもフライヤーを置いていたため、読んだことはなくともタイトルと表紙を知っている人は多いのではないだろうか。著者の松沢呉一氏は、性風俗関連の著書を多数発表している。 この本は、2019年に終了したM男性向け季刊誌『スナイパーEVE』に連載されていたインタビュー「当世マゾヒスト列伝」を文庫化したものだ。名前から分かる通り、マゾヒストの男性たちへのインタビューなのだが、インタビュイーの男性が本当に強者揃いだ。まさに「究極の変態」である。


インタビューのタイトルを一部抜粋すると、「SMという趣味に二億円以上使ったマゾ」「金玉を蹴られて天国へ」「膀胱を光らせるクニオさん」「肛門ブカブカ陰茎斬り」。タイトルだけでもう強い。 SM業界で働いていると、こちらが「とんでもない変態だな」と思うようなマゾ


に出会うことがある(この本に載っているM男性の中にもアマルコルドのお客さんがいる)。そういう人を見ても引くことはない。むしろ興味と畏敬の念を抱く。 女王様がM男に畏敬の念を抱くというのも変に思われるかもしれないが、SMもひとつの「道」であり、彼らはその道におけるある種の到達者、つまり達人なのだ。SMを始めて約2年、色々と迷うことも多い私とはステージが違う。 この本に登場するマゾは皆、自らの変態性を疑うことなく堂々と曝け出している。会ったらきっとまっすぐな眼をしていることだろう。変に恥じ入ったり卑屈になったりしない姿勢に、達人たちの粋を感じる。


インタビューの中では、彼らがどのようにして達人マゾになったのか明かされる。今の性的嗜好につながる原体験、周囲との嗜好のズレに対する懊悩……。SMを愛好する者にとっては「あるある」なエピソードも多い。 達人の道は一日にして成らず。「生まれた瞬間から変態の達人」なんて人は


いない。性的嗜好についての迷いや悩みを抱えている人に、私はこの本を薦めたい。自らの性的側面とどのように付き合っていくかという問題へのヒントがここにあるからだ。 書かれているのは、あくまでもマゾたちの個人的な体験と価値観である。自分の性的嗜好とどう向き合うかは、各々が自分の道を歩く中で考えるしかない。 だが、SMを通じて自らの変態性と向き合ってきた先達のあり方は、私たちを勇気づける。ロールモデルとしてはいささかエクストリームである感は否めないが、自分の経験と引き合わせて共通点や相違点を探る中で見えてくるものもあるのではなかろうか。 また、当書を読むことで、我が国の戦中から現代までのSM史を概観することができる。SMと共に人生を歩んできた達人マゾの面々は、まさに日本SM史の生き証人だ。一人ひとりの逸話から、日本におけるSMの様相がモザイク状に、しかしリアリティをもって浮かび上がってくる。 インタビューの間に挟まれたコラムも面白い。松沢氏の軽妙かつ明快な語り口で、SMに関するあれこれへのコアな解説が行われる。SMと場所の関係や変態出版


物の歴史の項は、読んでいて「なるほど」と思った。SMを仕事にしていても、まだ知らないことは多い。 コラムで触れられている「エゴマゾ」などは、SMバーでもしょっちゅう議題(?)に上る。コラムでは、こういったSMの「中の人」の世界を垣間見ることができるので、ノンケの皆さんが読んでも面白そうだ。


SMの入門書として、また読者を倒錯の深淵へと誘う魔の書として、私はこの本を会う人会う人に布教している。 お気に入りの本があると、家で過ごす時間も楽しいものになる。あなたも、おうち時間のおともにぜひ本をどうぞ。









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